日本食品工業(※以下、日食)浜田工場で丸大豆・天然醸造の醤油づくりが始まったのは、昭和30年代の中頃。
創業者の中西秀夫が、家業の醤油醸造・販売業を引き継ぎ、前身の「山洋食品株式会社」を設立する直前にさかのぼります。
中西が目指したのは、農薬や化学肥料に頼らない農家が育てた農作物を原料に、合成添加物を使用せず、伝統的製法で作られた加工食品を開発・製造・販売すること。
当時は高度経済成長期の真っ只中で、醤油製造では輸入大豆で食用油を搾った後の脱脂加工大豆でもろみを作り、6カ月余りで出荷するという速醸法が主流でした。
醤油の旨味と色は大豆のタンパク質から得られるため、保存料のアルコールを添加すれば、脱脂加工大豆でも効率よく、大量に醤油を仕込むことができます。
しかし、代々醤油を商う家に生まれ昔の味を知る中西は、周囲の反対を押し切り、伝統製法の丸大豆・天然醸造仕込みに着手します。多くの醸造元が、大手の速醸法で作った生揚げ(※醤油もろみを絞った状態)を仕入れ、瓶詰めだけを行うのが一般的だった時代。自社に丸大豆・天然醸造のための大型設備を導入するのは、画期的なことでした。
「大量生産はいつか淘汰され、原料で差別化する時代が必ずやってくる」という中西の思いに心を動かされたのが、日食浜田工場の初代工場長、濱崎光男でした。
丸大豆醤油を製造するためのデータは、何ひとつありません。しかし、10年・20年先を見据え、本物の醤油づくりを志した濱崎工場長の試行錯誤が実を結び、昭和48年、日食の丸大豆を原料とした天然醸造醤油は、本物の味を待ち焦がれる人たちに向け、初出荷されました。
丸大豆で仕込むと、大豆に含まれる脂質の影響で、発酵期間は脱脂加工大豆の2倍から3倍かかります。
でも、その分大豆の脂肪分がじっくり分解され、旨みとまろやかさが増すのです。
また、熟成中のもろみから自然なアルコール分が発生するため、保存性も高まります。
先人の知恵と自然の恵みが詰まった昔ながらの醤油には、余分なものを加える必要は無いのです。
顔が見える生産者が育てた国産丸大豆と小麦を使い、長期間熟成させた『日食のこいくち醤油』は、自然食品の通販ネットワークやこだわり食品を扱う小売店などを通し販売し、自社後発商品の『液体だしの素』、『めんつゆ』などのベースにも使われています。
自然のままの味、安心できるおいしさを発信する生産者と、それを求める消費者をつなぐために。
天然醸造の丸大豆醤油は、数々の自然食品を送り出す日食の「原点」です。